日本にグーグルが誕生していたかもしれない・・・。
そんなことを考えさせられる、
ノンフィクション本を紹介します。
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結論「起業の天才」は読むべきか?
江副浩正とリクルートの先進性を知りたければぜひ読むべきだと思います。
単純にノンフィクションとしても、グイグイ読めるので、
ノンフィクションの読者にも読み応えがあると思います。
当時、江副さんとリクルートの事件を、
リアルタイムで体験していました。
漠然と悪いことをしているんだと、
新聞やマスコミの報道を鵜呑みにしていました。
事件から数十年経つと、
特捜部の強引な捜査と、
オールドメディアたる朝日新聞がいだいた、
斬新な経営で躍進する、
江副さんやリクルートへの妬みや嫉みを感じてしまった。
もしリクルート事件がなければ、
江副さんが逮捕されていなければ、
日本にグーグルが誕生していたかもしれない・・・と、
本書は随所で匂わせている。
著者・大西康之さんについて。
本書の著者経歴欄には以下のようにかかれている。
1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業。日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本掲載新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月独立。著書に「稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営人生」「ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦」「三洋電機 井植敏の告白」「会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから」「ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正」などがある。
日経新聞の記者ということで、
経済や経営、産業についてのいわば専門家。
執筆する姿勢は、かなり情熱的で、
取材対象や人物について強い思い入れがあるのが想像できた。
江副さんやリクルートについて、
熱く熱く捉える著者の熱量が文章から伝わってくる。
序章で著者は以下のように、本書の執筆意図を書いている。
私(筆者)は、江副浩正の生涯をたどることで、戦後日本が生んだ稀代の起業家があのとき見ていた景色、そして「もし」この男の夢が実現していれば、どんな日本になっていたのかを考えてみたい。未完のままのイノベーションを完成させてみたい。
戦後の日本の新興産業史として・・・。
江副さんが企業と学生を結びつける情報誌「企業への招待」を創刊したのは、1962年(昭和37年)のこと。求人広告だけの本をつくり、しかも売るのではなく、タダで配るという考え。誰にも思いつかない、まさに「前代未聞のビジネスモデル」だった。
その先進性を本書はこんなふうに表現している。
いまだからわかることだが、江副の情報誌は、一言で言えばインターネットのない時代の「紙のグーグル」だったのである。つまり、情報がほしいユーザーと、情報を届けたい企業を「広告モデル」(ユーザーには無料)によってダイレクトに結びつけたのだ。
斬新なビジネスモデルと情熱的な営業で、リクルートはどんどん成長し、大企業へと変化していく。
ただ、苦難も待ち受けている。
就職情報誌に、老舗の出版社が参入してきたり、不動産の情報誌がヒットすると、大手新聞社が参入してきたり。
それでも、若い人材と自由な社風でライバルを打ち負かすことに成功している。
リクルートの成長していく様子、江副さんがどんどん新しいことに挑戦する様子は、
読んでいて小気味いい。
まだ日本が元気だった時代。
読んでいてもなんとなく清々しい感じがしてくる。
戦後史秘話としての本書。
江副さんの企業経営を描くと同時に、
戦後史や戦後の経済史のエピソードもいろいろ挿入されていて勉強になった。
例えば、通信自由化でNTTが民営化された時、
民間通信会社として第二電電(DDI)が創業する。
その創業の準備をする段階で、
多くの若手起業家が集まるのだが、
その中に江副さんが含まれていた。
ただ、実際の創業の時には江副さんは第二電電の創業には関わっていなかった。
そのいきさつがなかなか興味深かった。
当時の若手企業家でも、
ものづくりではなく、
情報を商売にしていた企業を見下していたというのは、
今からすると少し驚いてしまう。
それから、スキー場で有名な安比高原。
安比高原は、江副さんが一から開発して、
一大スキーリゾートに作り上げたというのは、まったく知らなかった。
この本でも何度も触れられているが、
一時期、車のリアウィンドウに、
「APPI」のロゴステッカーを貼ることが流行していた。
そして、オリンピックの候補地として、
安比が長野と争ったというのも初めて知った。
候補地の争いと同時に不動産の開発業者、
リクルートと東急の争いであったというのも興味深かった。
もし安比でオリンピックが開催されていたら・・・と、
想像せずにはいられなかった。
新聞と特捜部の暴走。
リクルートの子会社、リクルートコスモスの未公開株を、
政界・財界に広く譲渡していたことが贈収賄にあたるのではないかと問題視され、
当局が捜査を始める。
その動きを察知した新聞が1面で大きく報道したことが、
リクルート事件の発端となる。
川崎の土地開発による贈収賄の疑惑から始まったリクルートの報道は、
その後、政界へとうつり、
新聞社やNTTのトップに未公開株が譲渡されていたことから、報道が加熱し、
それに押されるように捜査当局も贈収賄のストーリーを組み立てて、
江副さんやNTTのトップを逮捕するに至る。
しかし、未公開の株とはいえ、
タダで渡したわけではなく、買い取ってもらっていた。
商慣習として、政界・財界の実力者に未公開株をある程度もってもらうことは、
よくあることだったと証券関係者は証言している。
これほど、大々的に報道し、
極悪人の如く逮捕するべきような事件かというと、
少なからず疑問を持つ人がいる。
特捜部といえば、ローキード事件も多くの強引な捜査が指摘されているし、
村木厚子さんの冤罪事件の証拠改竄、
最近では、河井夫妻の贈収賄事件で、
収賄の罪では一人も起訴されていない(その後起訴)など、
もはや社会正義の実現よりも、
自分たちの存在をアピールするために、
定期的に獲物を血祭りにあげているようにしか思えなくなる。
また、新進気鋭の情報産業のリクルートとその経営者の江副さんは、
オールドメディアの新聞社からすると、
自分たちのお得意様の広告を横から掠め取っていく、憎らしい存在に見えたと思う。
当時の日本の社会の
「未公開株で一部の特権階級だけ儲けやがって・・・」
という風潮も捜査を後押ししたらしい。
新しいことにどんどん挑戦し、
前へ、上へ、と突き進む江副さんの人生が、
後半は一気に下り坂になる。
いち早く情報の重要さを知って起業し、
新しいビジネスモデルをつくり、
その先にある通信の可能性に気づいていた「天才」を、
特捜部や新聞社は潰してしまった。
同時に日本の型破りな起業家を育てる空気も潰してしまったのだと思う。
今だからこうして、天才の功績を讃えることができるが、
当時の多くの日本人が、特捜部や新聞の暴走に加担してしまったのだ。
これから特捜部が動いたとしても、冷静に報道を見るべきだと思う。
江副さんの逮捕の時から強引な手法は全く変わっていないのだろう。
逮捕起訴されても、
またやり直せる余裕のある社会の日本でもいいんじゃないかと、
今更ながら思ってしまった。
本書のマイナスポイント。
「講釈師、見てきたように、嘘をつき」
本書だけでなく、ノンフィクションではよくあることだが、
当人同士しか知り得ない言動が、
会話として再現されているところにちょっと違和感を持った。
もちろん、多くの資料や著作を調べて書いているとは思うが、
いかにもその場にいたような会話は、
バラエティーの安い再現VTRを見させられているようで、
しっくりと来なかった。
就職情報誌に老舗の出版社が参入すると知った時の江副さんの様子は、
以下のように書かれている
ニュー八重洲ビルに戻った江副は、全社員を部屋に集めた。「あのダイヤモンドがわれわれを潰しにくる。これは戦争だ。完膚なきまでに叩きのめさないと。われわれがやられてしまう!」
悲壮感を漂わせる江副の言葉には、断固たる決意がこもっていた。
江副さんの心のうちまで書かれている。
また、仕事に口出しした奥さんに怒りだした江副さんの様子は・・・、
すると江副は、見たこともないような剣幕で怒った。
「これはビジネスだ。何もしらないお前が口を挟むんじゃないっ!」
江副の中の何かが変わり初めていた。いちばん近くにいた碧は、それを敏感に感じ取った。
と、当人しかしらない状況を再現して見せている。
遠からず同じような言動をしたのかもしれないが、
なんかやっぱりしっくりと来ない感じがして、違和感を感じてしまった。
「起業の天才」 まとめ
リクルート事件がなければ・・・。
江副さんが逮捕されていなければ・・・。
日本はどうなっていただろう。
本書を読み終わると、なんとも複雑な気持ちになってしまう。
日本からなぜ、グーグルやアマゾンやフェイスブックが誕生しなかったのか。
それは寛容であるべき日本人自身が、
新興の起業家を叩き、または叩くのをよしとする社会だからなのか。
現代の日本と日本人の悪しき平等主義が、
突出する人物を引きずりおろすからなのか。
江副さんとリクルートの勃興ともに、
現代の日本社会や日本人について考えさせる名著だと思った。
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